ESGインテグレーションを通じた企業のビジネスの成功と
地球や人類の課題解決との両立・好循環で、持続可能な未来をつくる。

大阪大学大学院国際公共政策研究科
ESGインテグレーション研究教育センター
共同代表・創設ディレクター 星野俊也

メッセージ

ESGを取り巻く世界の現在

2030年を達成目標年に国連で合意された「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現には官民をあげて誰もがステークホルダーとなり、「誰一人取り残されない」世界の構築に向かって行動していくことが求 められています。私は国際公共政策学の観点から地球規模課題や国連の役割に関する研究・教育に長く携わる一方、国連大使として日本の国連外交実務においてSDGsの達成を目指したさまざまな案件に取り組む貴重な経験をさせていただきました。そのなかで最も強く実感したことの一つは、よりよい持続可能な未来を切り拓く変革にとって企業が果たしうる無限の可能性でした。では、企業が営利追求というビジネス活動本来のダイナミズムを通じて地球環境や人類社会の課題解決により能動的、効果的に進めるにはどうすればよいのか。こうした問いを実務と実学の両面から探求すべく、この度、産官学民を横断して問題意識を共有する多くの方々のご協力を得て、本学の大学院国際公共政策研究科において「ESGインテグレーション研究教育センター」の活動をスタートできますことをとてもうれしく思っています。

実際、今日では企業のビジネス活動が及ぼしうる社会的なインパクトの大きさに鑑み、個々の企業の事業や業績を評価する上で、従来型の財務情報だけでなく非財務面での情報とされるESG、すなわち、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の各分野での取組やビジョンに高い注目が寄せられるようになってきており、すでに日本でも多くの企業がESGの実践に乗り出しています。たとえば脱炭素化の取組や生物多様性の尊重、ジェンダーやダイバーシティ、人権・労働問題への対応、さらに経営の透明性やコンプライアンスの遵守など企業統治のあり方の改善などです。

とはいえ、ESGをめぐるさまざまな制度はまだ形成途上です。その結果、率先してESGの導入を進める企業も手探りで活動せざるを得なかったり、ESGを専門とする格付け機関ではスコアリングの評価基準が乱立状態であったりといった問題を抱えています。また、投資家から一般の消費者までをも巻き込み、ESG経営を実践する企業を適切に理解し、後押しできる仕組みを整備していくことも重要です。さらに、企業が本業のビジネスのなかにどのようにESG要素を取り込めば資金調達や利益の拡大と地球環境や人類社会の課題解決とが適切に結びつき、真によりよい未来への変革に向けた好循環を実現できるのか、国際公共政策学的な見地からリスクとリターンを検証していくことも不可欠と考えています。

本センターの存在意義

実際のビジネス活動や投資の現場においていかにESG要素を取り込み、所期のリターンを得るかに着目する「ESGインテグレーション」への関心や実践は急速に高まっています。本センターでは、そうした一般的な意味でのESG論を前提としつつも、そこにとどまらず、国際公共政策学を専門とする学術機関だからこそのグローバルな視点とクリエイティブな発想で営利を追求する企業のビジネス活動を真に持続可能な未来への変革や課題解決へとつなげるため、イノベーティブなビジネスモデルや制度設計や政策提言なども探究する広義の「ESGインテグレーション」の研究教育に取り組みます。

このように広い観点から「ESGインテグレーション」を見直すことで、企業がビジネスとしてのリターンを最大化させながら自ずと地球や人類の未来にポジティブなインパクトを与えることを可能とするような循環モデルを導き出せるものと確信しています。世界ではいま、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)を克服し、さらにネットゼロ社会を実現していくにあたり、次の時代の「新しいノーマル(日常・当たり前)」となるアイデアやライフスタイルの提案と実践が求められています。それはSDGsが目指す2030年の社会から「バックキャスト」をし、いまいかなる選択肢を選ぶことが適切かを見極めるアプローチとも重なります。そして、これらすべてが新たな市場シェアや新しい市場そのものの開拓につながるビジネスチャンスになります。

私は、日本の企業が、これからの世界の新しい秩序や人々の行動様式を先取りしていくなかでのESGの実践にビジネスチャンスを見出し、世界をリードする底力に期待しています。そのためには、とかくお仕着せのESGモデルへの受け身の対応に陥りがちな認識を根底から転換する必要がありますし、「日本発」で編み出されたベストプラクティスに優位性があるならば、ESGという“世界の共通言語”をテコに、今こそそれをグローバルな標準にしていくことを目指すべきとも考えています。本センターが、アカデミアからビジネスや公共セクター、市民に広がる多様な「ESGステークホルダー」と連携し合い、ビジネスの成功が地球や人類の持続可能性の推進に直結するような新しい広義の「ESGインテグレーション」モデルのための建設的な議論と実践的なノウハウや結果を生み出す場となることを、心から願っています。

The Common Hall for the Humanities, Osaka University, Toyonaka Campus.
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